妙に視界が透明感あふれる景色の中、僕たちのステージが幕を開けました。

えぇ、開けまくりの開きまくり、客席の開放感はあけっぴろげって感じです。

なんてったって誰もいないんですから…。

本当にガラガラ。

客席にいるのはイベントスタッフとジュンさんの二人だけ。

ここまでガラガラだと見かけた人も本番だとは思わないでしょう。

「せっかく来たんだし、とりあえず時間だから演奏して帰ろうか。」

そんな気分で気軽に始まった僕たちの演奏。
スカスカの客席を駆け抜けてゆく軽快なアップテンポのナンバー。

ある意味、ものすごい爽快感です。

「上手い人達の演奏だったら、ここから人が自然と集まってくるんだろうけどなぁ。せっかくSanDiegoまで連れてきてくれたのに、このままで終わるのはCanaeちゃんに申し訳ないなぁ。」
と思いながら演奏していたら、僕たちが到着した頃に演奏していたバンドのメンバーが見にきてくれて最前列に座ってくれました。

「始まったんだね〜。」
「見に来たよ〜。」

な、なんてナイスな人達なんでしょう。

「もっとベース上げなよ〜。」

やっぱり自分は大きな音量での演奏に慣れていないようです。
遠慮がちというのはパフォーマーとしては致命的だなぁと、いつも思います。

この辺りはどんどん経験を積んで、丁度いいバランスを身につけていかないといけませんね。

PAの人が卓の方でバランスを取ってくれていたと思うのですが、本番になって全体のバランスが変わったのかもしれないですし、ちょっとあげようかな。

ジャジャジャァ〜ン!

次の曲が終わりました。

パチパチパチパチ〜!!
おや、他にも見にきてくれた人が席から拍手をしてくれました。

「もっとベース、もっとベース!」
え? まだまだ足りないの!?

じゃぁ、PAの人には悪いけど、もうちょっと上げてみようかな。
アンプのつまみを少し上げて低音がドォ〜ンンンと響き渡りました。

「Ah~, that’s it !!」
なるほど、確かにこれは気持ちいいです。

低音がステージから客席に迫っていくのを感じます。

屋外なんで余計に低音を出す必要があるのかもしれませんが、それを加味してもこの時に得た感覚や自分の耳に聞こえる音量バランスは今後の演奏の糧になりそうです。

Alがサックスに持ち替えて伴奏が薄くなっている上に次の曲はバラードなので、ロングトーンの低音でしっかりと曲を支えないと説得力がなくなってしまうところでした。

いやぁ〜、彼らのアドバイスがなかったらきっと寂しい演奏になっていたことと思います。

お礼に、浴びるほどベースを聴いていただこうではありませんか!

バラードの次はスラップの曲に突入です!

「Oh~, Yeah~~!!!」
やっぱりスラップはサウンドが派手になりますね。
指弾きの曲とは聴き手のテンションや反応が段違いでした。

帰り道にステージ裏を通り過ぎようとしていた団体もステージが気になったようで、足を止めて聴き入ってくれてました。

何やってんだろう?って感じでステージの正面に回って見てみたり、気がついたら客席のお客さんがほんの少し増えていたり。

こういうことがあるとスラップのアピール力や存在の大きさを実感しますね。
それにサウンドがいわゆるプロっぽく感じられますし、これは是非磨き上げていきたいところです。

弾ける人にとっては「まぁ、そうだよね。」ぐらいのことでしかないとは思いますが、まだまだモノにしきれていない者からすると、このアピール力は世界が変わったかのような、「今まで」と「これから」が明らかに違う、そんなプレイヤーとしての分岐点に立っていることを肌で感じる出来事でした。

指弾きと違ってアタック感が強力に出る上に、ゴーストノートも多用するのでヴォーカルの邪魔になりはしないかと気になる部分もありましたが、それが今回の演奏でのギターの不足をカバーするための鍵でしたし、お客さんが楽しんでいるようだったのでここは引くわけにはいかないと派手にリズムを色付けしてみました。

スラップの曲が終わった時のリアクションの良さ、拍手の多さに付け焼き刃とはいえ、スラップ投入作戦の成功を感じさせてもらいました。

実は、スラップを練習する過程で養われたゴーストノートを他の曲の演奏でも隠し味的に使ったりしていて、過去に演奏した従来の曲もスピード感が増していたり、スリリングさが加味されていたりしました。

これはベースの指弾きだけでなく、ギターのプレイにも取り込んでいきたいところです。

お客さんの注意を引けたり、曲が派手になったり、リズムが強力に打ち出せるようになったり、他の楽器のプレイにまでも良い影響を与えたりだなんて、一石何鳥なんでしょうね。

賭けだったけど思い切ってチャレンジしてみて良かったなぁ〜と、しらけた演奏でCanaeちゃんを家路につかせないで済みそうな客席の反応を見て一安心しました。

その後、アニソン2曲で楽しんでもらい、ラストの曲でまたスラップを披露させてもらいました。

ベースソロもなんちゃってスラップでゴリ押しです。
力加減がまだ全然モノになっていないので、後半にはもつれてきて苦し紛れな、だらしないものになってしまいましたが、とりあえず客席みんなが盛り上がってるので良しとします。

ラストの曲が終わって、始めた時にはガラガラだった客席も気がついてみたら笑顔のお客さん達が惜しげもなく拍手の雨をくれていて、しかもアンコールまでもらうというありがたい結果となりました。

ある意味、バンドの演奏でそれだけの耳を引きつけたということになるのではないでしょうか。
Canaeちゃん、Al、カズ君…みんなで力を合わせての結果です。
僕はこのみんなを誇らしく思います。

なんとか役目は果たしたかな。

演奏した楽しさもありますが、それよりも空席からここまで状況を好転させることができたことにホッとし、サポートを務めてそれなりに結果を出すことができたことに小さな達成感を感じました。

「アンコールなんて曲残ってないよ〜。」とCanaeちゃん。
「How about ….. Fly me to the moon?」とAl。

その場でiPhoneのAppの「iRealPro」でコード進行とキーを確認して、アンコールとしてステージ上でジャムをしました。

iRealはスタンダード曲を網羅しているRealBookのアプリ版みたいなものですから、もしジャズ系のミュージシャンの方でご存知でない方は試してみてはいかがでしょう?

かなり便利ですから役に立つと思いますよ。

Fly me to the moonですが、カズ君の慣れ親しんだビートのHipHop調のグルーブにスラップで派手派手に遊んでみたら、それもウケがよくて、前のバンドのみんなが演奏終了後に「ベース良かったよ〜」と駆け寄ってくれました。

ミュージシャン同士のコミュニケーションと言ってしまえばそれまでのことかもしれませんが、キラキラした目と少し興奮した表情と声に、心から言ってくれてるのが伝わりました。

こちらこそ、聴きにきてくれて楽しんでくれてありがとうという気持ちで一杯でした。

自分が技術を磨いていくことで誰かに喜んでもらえるだなんて本当に嬉しくありがたいことですね。

このライブを機に、スラップを自分の演奏スタイルに取り入れて磨いていきたいと思いますし、もっともっとリズムに磨きをかけていきたいなぁと思います。

今回はやっぱり色々と粗が目立つテスト運用でしたからね。
でも、グルーブと音色をある程度のレベルで安定させておくだけでも十分に使えるものだという手応えを得ることができたのは大きな収穫でした。

Canaeちゃんも彼らに囲まれ、色々と情報交換をしていたようです。
もしかしたら、今後どこかのイベントでまた顔をあわせることになるかもしれませんね。

さてさて、当ツアーのオプション(?)プログラムであるステージ演奏体験が無事に終了しました。

プールでくつろぐコスプレイヤー達の横を抜けてホテルをにお別れを。

あとは荷物をまとめて帰るだけなのですが、せっかくSanDiegoに来たのだからとジュンさんの提案でビーチまでバンを走らせることになるのでした。

ツアーの目玉はここからです。